ホワイトデイのテディ・ベア 姉弟じゃないけれど、そんな感じに育った幼馴染みとしては。
義理チョコと云うか、友チョコプレゼントは欠かさない感じで。
今年は久々に手作りしちゃったり。
いやあ。そんなに、張り切った訳では、ないんだけどね?
そんなさあ、いたく感激されたような風だと、ちょっと微妙に申し訳ないとゆーか?
悟空、あんまし、お返しについては張り切らなくていいのだよ?
ホワイトデイが近付いたあくる日。夕食後にコンビニに行った帰り道。
悟空から三月十四日は空けておけよと言われ、嫌だと即答で返す。
「私、その日はバイト入れようかと」
「何でだよ。バイト入れる前なら、いいじゃんか」
「よくねーよ。今月はイベント目白押しで先々月からお財布事情逼迫してンのよ。来月はでーずにーランドの新イベント控えてるし」
イベント参加を考えれば、とてもとてもウキウキするが、通帳とお財布のことを考えると洒落にならないくらい落ち込みそうになる。予算オーバーのため、貯金にも手をつけたのだから。
「それに、今年は春からゴールデンウィークにかけて、観たい映画が盛り沢山! 今思い出せるだけでも八作もあるんだから!! …アレ? 六作品観れば、次一回は無料か…」
ぼそり、と呟いてみたが、どれも千円の日狙いでないと苦しい。五月中旬には、観たい舞台もある。
とてもではないが、独り暮らし計画は当分お預けだ。
今の家は居心地は良いが、いつまでもお世話になれない居候身分。
同居人は、悟空とその兄弟と、更にその友達の四人。
せめて大学生になったら出て行こうと思っていたけれど、来年まで無理かも…。ちょっち動くのが遅かったな。反省。
高校も無事卒業したから、今は暇な毎日を作らぬよう、忙しく動いていた。
「と一緒に居たいんだよ」
仏頂面で小声で吐かれた台詞に少々の感動はあれど。
「いっつも一緒じゃん」
ありきたりに返す。
「そうだけど、そーじゃなくて! 一緒に遊びに行きたいし!」
「遊びに行くなら、また今度ね? 来月、大学の入学式前なら、オッケイ」
「そんな先ッ!?」
大声で驚く悟空に、さらっと言ってやる。四月五日は悟空の誕生日だ。あ、入学式は三日だっけ。
「バレンタインのお返しなら、そうそう気にしなくて良いし、張り切らんでもよかとよ? 私、クッキーかマシュマロ頂ければそれで満足」
にっこり笑うと同時に、白い息が弾んだ。
「そんなんじゃいつもと変わんねーじゃんかッ。今年は違うのにしたいんだって!」
「って言われもなー」
考える素振りで、今年は違うのにしたい、の意味の方を考える。
つまり、それは…。
「じゃあ、バイトは夕方までで切り上げるから、夜ならいーよ? どうせ家に居るし、家のみんなもお返しくれるだろうし、八戒は張り切ってご馳走作ってくれそうだし」
「だから、遊びに行きたいんだって!」
「どこへ?」
「でーずにーシー」
少なからず、驚きを覚えた。よりによって、そっち?
もう片方のパークより、異国情緒溢れて大人っぽいイメージがあるだけに、このチョイスから悟空の考えを読もうとする。
ううーん。
目の前の見慣れた顔は、とても真剣だ。瞳の輝きがいつもにも増して強い。
この子の部屋漁ったら、デートプランの本が出てきそうカモー。
どうしよう、ざわざわする。
小さな頃から一緒に育ったが、特段良い雰囲気になったことはなく。
悟空は好きだがシカシ。
あたしの考え過ぎでなければ、自惚れでなければ、コレはもう。
でも、マトモに受け取る気になれないのはなぜだろう?
他に好きな人でもいたか?
パッと思い浮かぶ三人には悪いが首を振る。好きは好きだが家族愛以上ではない。
他の人間の男は殆ど見分けがつかないというと大袈裟だが、まあ興味がないから仕方ない。
悟空は弟分じゃないか。
そんな真剣な眼差しを送られても、困るのだよ。
困るのは…。気持ちに応えられないから?
否、そうじゃない。
「の好きなトコ。俺、久々に行きたいし。それに、したいコトあるし」
理由が沢山あるらしい。
「したいコトって?」
ニッと笑った悟空が言う。
「内緒!」
「…あそう」
夕方以降じゃ駄目らしい。
「しょうがない、じゃあ譲歩。一時までバイトします。それ以降は、悟空に付き合ってあげる」
四時間だけでも働きたいの。
多分、この時間でもバイト入れるはず…。ほんとーに、切迫してるのあたしの財産管理!
「じゃ、約束! 絶対だかんな!!」
「うん」
仕方なく、差し出された小指に自分の小指を絡める。指切りってもうちょっと!
そういえば、中学生くらいまでは、よく約束の指切りしたっけな。
家に辿り着いて、ただいまを言った。ハモった二人の挨拶に、八戒が台所から応える声が聞こえた。
そのまま二階に上がってそれぞれの部屋へ。
部屋の壁掛けカレンダを見る。これもでーずにー仕様。
約束の日まで、あと、九日。
当日は、何が起こるのだろう。
ホラ、漫画やドラマとかじゃよくあるじゃん。幼馴染み同士の恋模様。
だから、今までの記憶総動員して考えられるのは一つだけ。
悟空があたしのこと気にしている気がするのはもう随分前からのことだ。でも、どこか家族の範囲を超えない程度に思えていた。
キョウダイの定義から、外れる。
キョウダイじゃないから、外れてもおかしくないけれど。
この今の関係が居心地良いから、壊したくない理屈。
否、屁理屈。
待ってよ、これは、単に悟空の家族愛、キョウダイ愛の範疇じゃないの?
考え過ぎて期待をする私は、一体どうなって欲しいの?
どうしたいの? どう、なりたいの…?
幸い、考える時間は、まだある。
ホワイトデイ当日。
家を出る前に、朝餉の卓で悟空があたしに青いリボン付きの箱を渡した。
「ん。お礼のクッキー」
「…ありがとう」
あ、あれ、ちょっと拍子抜け?
他の三人からも同様にお礼を頂き、バイトに行く準備を始めた。
ええええええええええええええーと?
良い雰囲気真っ最中の大盛り上がりの時点でプレゼント手渡し+告白と考えていたのですが。いや別に、他のパターンの候補もシミュレーションしてあるけどっ!
第一候補に、悟空はベタな展開で来ると踏んでいたのです。
ちょっと淡泊で残念…かも。
い、いいや?
ちょっと何でもないように装って、そんで後でびっくりさせようってな感じかもしんないじゃん! どっちかっつーと、そっちのがベタじゃね?
ああ、でも駄目かも。
この状態が長く続くと、こっちから好きだと言ってしまいそうだ!
んん? それおかしくね?
嫌だ! あの子いつの間にそんな策士に!?
…なーんっつて、そんなことをグルグル考えていたら、あっちゅー間にバイトは終わった。
うん、あたし、自分がおバカの子だって、じゅーぶん知ってる…。
そして、約束していたでーずにーシーの前で落ち合い、中へ。
水上ショーが始まる前なので、エントランスを抜けると人集りが出来ていた。
悟空が買い物をしたいというのに合わせ、ハーバーを通り越し、坂の上にあるストアへやって来た。
「はここで待ってて」
入り口の噴水前で待つことを要求された。あの、だいぶ暖かくなってきたとはいえ、今日はちょっと風が冷たいんですが!
混み合っている店内を恨めしげに見つつ、悟空を待った。
今は大きなシーズンイベントはないけれど、新しいクマさんのぬいぐるみが発売されたことがあってかショー前だというのに混んでいる。…カップルが多いな。今日という日だからしょうがないか。
まだかまだかと思いながら、悟空が何を買っているか、候補を考える。
そんなことしないで、素直に驚いてあげればいいのだが。
つか、もう自分へのプレゼント購入中だとか決めて掛かっている辺り、あたしも結構アレだな。
元祖クマさんのぬいぐるみは、十三センチくらいのなら幾つか持っている。大きいのも欲しいが、未だゲットなし。買っちゃったら着せ替え商品も絶対に欲しくなるから、散財を恐れてのことだ。
新しいピンクのクマさんも、同様の理由でゲットせず。もっと小さいのが出たら買おうと決めていた。
数歩だけ入り口から左に離れて、ショーウインドウを見た。
先月と少しだけ変わっていたが、元祖クマさんとピンクのクマさんが仲良く座っている飾りつけ。
これを見た時、悟空が思い浮かんだんだっけ。
ちょっと勝手に出るな溜め息!
息を吐いたあたしは、元の入り口付近へと戻った。
まだかあんにゃろー!
もう中に入ってやろうかと思って前進した時、ふいに肩を叩かれた。右肩越しに見えた、超見覚えのあるベージュの手。元祖クマさんの手だ。
ぱっと振り向くと、悟空が居た。
今し方ショーウインドウで見たばかりの、二匹のクマさんたちを抱いて。
トレードマークのような、季節にはそぐわぬ向日葵の笑顔を浮かべて。
ああ、うん、出入り口、他にもあるものね。奥から出て、こちらに回り込んだだけのことだ。
でも、こんなちょっとのサプライズですら、嬉しくなるなんて、おっかしいなぁ。
「ごくう〜〜」
ああ、そうか。いつぞやのクリスマスのCM風味だからか。
「へへっ。これは、へのプレゼント」
二匹とも、あたしの腕に収まる。これで歩くのはちょっと楽しそう&大変そう…。
「でも、今日はこっち俺のな」
元祖クマさんは、悟空の元へ。
悟空とクマのぬいぐるみって組み合わせも、をを、いいかも!
やっぱし、思った通りだ。
うん、イイ!
二人で一緒に、クマさんのぬいぐるみ持って歩きたかったんだー。
ピンクは苦手だけれど、今回は、気にしない。ことにする。
「悟空、ありがとうっ!!!」
散財の懸念もこの際忘れ去るとして、この幸せな気持ちに浸ろう。
「いや、うん」
照れる悟空が可愛くて、ぱぱっと抱きついてもう一度お礼を言う。
「ホンットーに、ありがと! 超嬉しい!」
言うだけ言って、ばばっと離れる。
少し固まった悟空を見て、にっこり笑って尋ねた。
「で、悟空がしたいことって、何? 元祖クマさんと一緒に写真撮る?」
あたしが先月思い浮かべたのは、それより先に、メインエントランスにある大きな水地球儀の前での記念写真だった。ハーバーと火山を後ろに撮るのも捨て難い。
元祖クマさんと一緒! は、候補としては二番目だったが、ここから近いこともあり提案してみた。
「それもいいけど、俺、水地球儀の前で一緒に撮りたいな。何度も来てるけど、水地球儀の前では写真撮って貰ったことないじゃん」
撮って貰う。ああ、なるほど。それで昼間に来たがった訳か。
フォトサービスとして、プロカメラで写真を撮ってプリントして貰えるのだ。台紙付きでちょっとお値段は張るが、思い出作りにはもってこい。
「よし、行こう。さっき通った時は、列少なかったよね。列切られる前に並ばなきゃ」
写真撮影のサービスは時間によって行われないことがある。あたしたちは少し早足にメインエントランスへと向かった。
ショー前ということがあってか、こちらは人が少ない。目算、十五分も並べば順番が回ってくる。
並んでいる間は、二人でクマさん抱っこしながら、世間話しか出来なかった。
何か、お互いに緊張しちゃってる感満載で。
当たり障りないことくらいしか、思いつかなくて。
ああ、そーらはあんなにあおいのにー…とか、どこぞの昔アニメのフレーズが思い浮かんだ。睡眠不足ではないが、頭が回らない。つい、空を眺めてしまう。
悟空はキョロキョロして落ち着かない感じ。
順番が来て、それぞれクマさんを胸の前に抱き、笑顔を作った。
緊張はあったが、上手く笑えた、と思う。出来上がり見るのがドキドキ。
それから、ハーバーショーが始まっていて、あたしたちはまたストアの近くへと戻った。人が多いので、橋を渡って火山の近くへ移動。もう少し見ていれば、黄色のワンちゃんが来るポジションだ。石階段に座れるスペースがあったので腰掛けた。
リズムのいいショーを見てから、ソッコーで元祖クマさんのところへ向かった。
三時からグリーティングが再開されるはずだからだ。
元祖クマさんは、来週から近くのレストランショーにも出演となる。そのため、グリーティング時間は今までより短くなるのでは、と懸念していた。今のうちにグリしておこう。
会えるという確かな情報はなかったが、既に長蛇の列が出来ており、カメラマンさんたちが出てきていたから大丈夫だろう。
今度の待ち時間では、これからどこを回って、どこで夕食を摂るかを話し合えた。
いつもの冗談混じりも復活し、ちょっと安心。
一時間近い待ち時間も、何とか凌げた。
そして、元祖クマさんと一緒に写真を撮った。ハグ出来て幸せ! ああ、やーっぱ可愛ええなあ!
元祖クマさんの両脇にあたしたちは並んで、しっかりピースサインつきで撮影終了。
それから、近くのレストランでスイーツを食す。元祖クマさんたち仕様の内装と一緒に楽しんだ。
ちょっと歩いてカメさんとお話出来るアトラクションを体験し、ブッフェスタイルのレストランで食事をした。二人とも大食らいだから、ちょっと高いけれど、ブッフェはありがたい。待ちまくった分、食べまくった。
レストランを出た時には、日が沈んでいた。
もう少しで、抽選の当たったジャズ音楽ショーが始まる。盛大に拍手をしながら楽しんだ。みぇっきーのドラムプレイは、楽器に興味のないあたしでも、毎回引き込まれてしまう。もう、うっとり。
ショーの話で盛り上がりながら、今度は夜のハーバーショーを観るために場所取りに向かう。
開演まで一時間を切っているから結構人が多い。後々のことを考えて、火山の近くで観賞することにした。そこも最前列は埋まりかけていたけれど。
そして、海底王国の世界までダッシュで行った。向かいにそびえる王宮と一緒に、綺麗に上がる花火を観るためだ。
うーん、ろまんちっく。
近くの寄り添う恋人たちは視界に入れない方向で。
悟空と二人を満喫したいってのもあるけど、今のあたしには目に毒というか。
うちら結局ナンモない感じのままなんスよ?
それから人魚姫の居るショーを観たり、マジックショーを観たりして、感動も笑いも沢山味わった。最高に、楽しいッ!
船に乗って大海原へ冒険に出るアトラクションに乗って、早足で台風撃退の体験をしに行って、最後は未来の港でヴィークルに搭乗。不規則な動きを楽しんで、滝洞窟を通る時ははしゃいだ声を出して笑い合った。
青や紫の照明光に包まれて幻想的な風景と水面。
ふと見た悟空が、いつもより大人びて見えるマジック。
あたしは、どうだろ。
あっという間に閉園時間を過ぎてしまった。
あれ、今日はここに何しに来たんだっけ?
灯台の近くを通る時、そういえばここでも元祖クマさんの写真スポットがあるんだった。
灯台へは一、二度しか行ってない。悟空に言って少しだけ寄り道することにした。
元祖クマさん専用のテーブルがセッティングされていた。先客が二組。カップルと、女親子。
デジカメを用意して、母親さんに頼み写真を撮って頂いた。
これで元祖クマさんづくしは終わり。早くカメラ屋さんに行って、昼間撮った写真を受け取らないと不味い。
「さ、悟空、ダッシュでカメラ屋行くよ!」
「待った!」
携帯を取り出す悟空を見ながら、何事かと思う。
「携帯でも撮ろうぜ」
「判った。ちゃちゃっとね!」
悟空の隣に並ぶと、元祖クマさんを渡された。そして、肩を引き寄せられる。
をい、と心の中で突っ込んだが、口には出さない。
クマさん同士をくっつけ、自分たちと同じようにした。
「、笑ってー!」
悟空の掛け声に、にっこり笑った。
カシャッっとシャッターが切られた。
多分、今日撮った写真では、一番自然で、いっちばん、幸せな笑顔してたかも。
パカンと携帯を降りたんだ悟空が俯く。
早く行こうと急かすのを躊躇う。
俯いた横顔に、ただならぬ雰囲気が読み取れたから。
来るか?
波の音と、自分の心臓の音がうるさいくらいに聞こえている。
あたしとしては、何かあるなら早く言って欲しい。
じゃないと、こっちから言っちゃうぞ。
悟空が躊躇いがちにあたしの名前を呼んだ。
「…」
何、と言いかけたら、おおーい、邪魔!
他の客登場。しかも、カップル二組だよ! どうやらお互いに知り合いらしい会話。
いや、今はあたしらが邪魔か。そそくさと灯台を離れて、互いに無言で走る。
人にぶつからないように加減しながら、でもなるべく速度は落とさずに。
カメラ屋には、店外まで人が並んでいた。受け取り専用列に並んで、写真を受け取った。
ふう、これで一安心。
じゃなくて。
そーだけど、そーじゃなくて!!
あー、もう、もー我慢出来ないっ!
あたしより先に歩く悟空の背中をひと睨み。
このまま帰ってなるものか!
チャンスはどこだ? いつだ?
メインエントランスにはまだ人が多い。流石にここでは言い辛い。モノレールに乗ってJRの電車に乗って…。地元駅から家路に着くまでの間で、良い狙撃ポイントを定めねばならないッ。
公園辺りがベターだろうか。否、モノレールに乗らない、という手もあるぞ。歩きでJRまで行けばいい。その道すがら…。
いいや、一度歩いたことあるが、狙撃、じゃねーや、告白プレイスは無きに等しい。いっそ、近くの運動公園に行きたいと言ってみるか?
ちらり、と大きな水地球儀を見遣った。
あたしがちょこっと思っただけの、こと。
悟空とこの水地球儀の前で、元祖クマさんたち抱えながら写真撮りたいなって。一緒に、歩きたいなって。
手は繋げなかったけど、殆ど叶ったも同然だ。
しかも、悟空もあたしと同じこと考えていたのが、すっごーく嬉しい。
昔っから気の合う奴で。
ずっと一緒に居るのが当たり前で。
もしこれから一緒に居られなくなるかも知れないなんて考えただけで、涙出そうだよ。
独り暮らしはしてみたいけどね、居候だから出て行かなきゃ、なんて思ってるけどね、本当は悟空と一緒に居たいんだよ。
出て行くなら、貴男と一緒が良いの。
去年、あたしの誕生日の後で、悟空に言った。
この家を出て行くつもりがあること。
大学の近場で独り暮らししたいかなー、なんて、冗談のように。
すっごく驚いた顔をした悟空は、あたしの冗談調に合わせて、殆どスルーした。それからは一度も言っていない。他の三人にも。
ただ離れなければ、いーのかな?
ぬいぐるみがくっついているのとは訳が違うの。
ちっちゃな頃とも、違う。
ずっと一緒に居たいって、ちゃんと伝えないと。
例え、住む家が違っても、ちゃんと繋がっていたい。
心で繋がっていたいと、そう思える相手。
無言のままサウスエントランスを出て、結局モノレールに乗った。
地元駅に着いても、殆ど話さなかったあたしたち。駐輪場から自転車を出して、乗らずに歩く悟空に合わせた。
もう少しで雲に隠れそうな暁月が目に入る。雲の移動速度からして、上空はかなり風が強いようだ。
「花火、見られて良かったね」
先を歩く悟空に言ってみる。
「私が先月行った時には二勝三敗だったの。雨のせいもあったけど。海近くは風強いからねー」
「そうだな。また観てぇな」
何度見ても、花火は綺麗に見える。あの光の集合、そして離散が堪らなく美しい。散り際の光の粒一つ一つに魅入ってしまう。
散る、或いは壊れることが趣きあるように思えるものもあるが、この関係は壊したくない。壊さずに、もっと良いものに出来ると、思う。
そうしたい。
だから、言うね。
「悟空、ちょっと止まろう」
悟空が振り返ってあたしを視る。
その瞳が語っていた。
自分も言いたいことがある、と。
じゃあ、あたしの言葉は貴男が止めてね?
歩道橋の薄暗い階段下で二人見つめ合う。
「今日は、とっても楽しかった。誘ってくれて、ありがとう」
「いや…」
「プレゼントも嬉しかったし、一緒に写真撮れたのも、嬉しかったよ」
悟空がはにかむように笑った。照れ隠しに、痒くもないだろう頬を人差し指で掻いている。
「水地球儀の前で撮ろうって言ってくれたのも、すっごく嬉しかったのよ? 私、そうしたいって、元祖クマさんのぬいぐるみ持って撮りたいって、前に思ったことがあるの」
「そーなの?」
「うん。勿論、悟空と一緒にだよ?」
悟空が大きく瞬く。
他の誰でもない、貴男とよ。
「また一緒に行こうよ。来月の、悟空の誕生日にでも。一日中は無理でもさ、少しでも、悟空と一緒に好きな場所で過ごしたい。いや、他に行きたいところがあれば、他の場所でも行くわ」
「…」
「今までのように、一緒。けど、もっと近くに居たい。これからは、今まで以上に、特別な存在として、私のこと考えて欲しいの」
悟空の驚いた表情を見ながら、口を開く。
「私、私ね…」
溜める。自分から言いたい気持ちはあれど、言って貰いたい気持ちも山の如し。嗚呼、複雑なヲトメゴコロである。
「ま、待った!」
うん、待つ。
などとは実際には口にしない。やっぱし、先に言って欲しいかな。聴きたいかな。
アイノコトバ。
「悟空?」
先を促す。沈黙が長くなると辛い。短気だから待てない。
でも、緊張度マックスの悟空の気配にあてられて、あたしもちょっと緊張…。
真剣で熱を帯びた瞳を視て、短気は損気と自分を落ち着かせる。悟空のために、ブレーキは意地でも踏み続けようか。
忘れがちになっていたが、今日はホワイトデイだ。たててあげましょ、男の子。
軽く唇を噛んだのは彼なりのゴーサインだったのかも。
一気に口火を切ってきた。
「俺もおんなじだ。俺も、と一緒に居たい! もっと、ずっと近くで一緒に! これからも、ずっと…一生ッ!」
一生、と脳内で繰り返し再生。
「俺、が好きだから。大好きだからッ!!」
大好きだから、も繰り返し再生。だって、忘れたくない。
「その想い、私も一緒。悟空、大好きだよ!」
キョウダイとしてじゃなくてね? と付け加えた。
当たり前だ、と怒られて、笑う。悟空も笑顔だ。
何だか思っていたより恥ずかしくて、残りの帰り道もあんまり話せなかった。
ただ、家に入る前。
玄関の前で交わした軽く触れるだけのキスは。
言葉よりもずっとずっと、悟空の気持ちを伝えてくれた。
まだまだ始まったばかりで、ぎこちなくて、不器用なあたしたちの恋を表しているかのよう。
互いに照れ笑いを浮かべて、視線を外す。
あたしが見た先には、あたしの腕の中に抱えた元祖クマさんたち。
いつの間にかこの二匹も、向かい合ってキスをしていた。
**ピンクのクマさんは、元祖クマさんの新しいお友達設定です。公式には。今のところは。そのうち彼女ポジションになると思われ。
さー、自己満足誇大妄想大炸裂でした。
ただ私が、悟空とこう過ごしたかっただけです。ええ。
花火以降後半の快進撃については、ちょっと無理あるかも…。海底王国や未来の港辺りは人だいぶ減っているでしょうけれど。上手いこと待ち時間なし、くらいじゃないと駄目かな…。過去に同じくらいのことしましたが。
彼らの移動速度と運の良さによって叶えられたということで…。
ヒロインの一人称にすると、お喋りヒロインではエライ文字数食うと反省。
*2010/03/02up
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